2009/12/17

理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性

個人的合理性と集団的合理性の差異による囚人のジレンマ。
その他、コンドルセのパラドックス、ハイゼンベルグの不確定性原理、EPRパラドックス、ゲーデルの不完全性定理・・・などなど、タイトルにもなっている「理性の限界」をキーワードに、選択・知識・科学の3つの限界が論じられる良書。

架空のシンポジウム、パネルディスカッション形式で記述された平易な文書は、哲学や論理学に馴染みのない読者に優しい。しかし、巷にあふれる”はじめての”とか”1分でわかる”といった類の軟弱な入門書ではなく、しっかりとした議論の骨子が形取られている。また、登場人物の立場設定が、それぞれの議論内で明確に主張が異なるように構成されている点も、理解を深める工夫として秀逸。

個人的に、1章と2章が面白かったので、詳しく記述しておく(第3章も論理学として面白いですが)。

1章は選択の限界。
コンドルセのパラドックス、ボルダのパラドックス、アロウの不可能性定理、パロウスの全員当選モデルを通して、如何なる民主的な投票方式においても、必ず戦略的操作が可能であること、即ち完全に公平な投票方式は存在しない。従って、完全な民主主義は不可能であることが明らかにされる。ここは知っておいて損はない。

次は、1984年に実施された囚人のジレンマプログラムコンテスト。著者も書いているが、このコンテスト結果が非常に興味深い。
ルールは、2台のコンピュータ(プログラム)が「協調カード」か「裏切カード」を同時に出し、
  • 2台とも裏切であれば双方に1点
  • 2台とも協調であれば双方に3点
  • 一方が裏切、一方が協調ならば裏切者に5点、協調者には0点
という決まりでポイントを獲得。1試合200回、5試合平均ポイントで勝敗を決定するというもの。優勝は、FORTRANでコーディングされた、たった3行のプログラムだったそうだ。
  1. 協調を出す
  2. 次回は前回の相手と同じカードを出す
  3. 以降、これを繰り返す
これは、Tit For Tat:「しっぺ返し」戦略と呼ばれ、ゲーム理論では有名だそうだ。


第2章は科学の限界。
科学とは何かといった議論を出発点に、天動説・地動説、ハイゼンベルグの不確定性原理、実在的解釈と相補的解釈、EPRパラドックスを通って、パラダイム論に至る。第2章は量子論入門読み物として優れていると考えます。

しかし、それらをうまくまとめられる自信がないので、ここは引用中心で気になった所を。
非ゼロサムゲームの理論を公理化し、各プレーヤーの利得を最大化する均衡解が一意的に存在することを証明 = ナッシュ均衡 P94

不確定性原理 = 様々な状態が「共存」して、どの状態を観測することになるのかは決定されていないこと P141

コペンハーゲン解釈(相補的解釈・相補性) = 相反する二つの概念が互いに補い合うことによって、一つの新たな概念を形成するという考え方 (デンマークの物理学者 ニールス・ボーア) P141-2

EPRパラドックス〜二重スリット実験〜シュレディンガーの猫、多世界解釈 P142-153

パラダイム = 一定期間、科学者集団に対して、問題と回答のモデルを与える一般的に認知された科学的業績。パラダイムの「危機」は根本的に新たなパラダイムの出現によってしか乗り越えられない。 P168-9

決して生産性を求める議論用のネタではないが、知的好奇心を満たすには十分すぎる740円です。




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