2010/01/12

企業情報システムアーキテクチャ/アーキテクトの審美眼


南波 幸雄
翔泳社
発売日:2009-04-16

企業内の情報システムにおけるリスク管理や移行計画、成熟過程までをカバーして「アーキテクチャ」を俯瞰・整理すると共に、200を超える参考文献を参照しながら解説される良書。以下3点を目指しているとの事だが、かなりバランス良く纏まっている。
  1. 企業情報システムと情報システムの粒度差異からくる視点の相違明確化
  2. 現状の情報システムの問題をアーキテクチャの観点から説明し解決方向性の見出し
  3. 著者の実務経験及び研究成果を生かし、現場で役立つ業務遂行能力を育成
企業における情報システム従事者必読。

近年、激動の経営環境に追従できる情報システムが求められており、柔軟性と即応性が鍵となる。そのような状況下では、小手先の対応ではすぐに破綻をきたす。コンセプトを持ったアーキテクチャが必要とされる。決して本書が全ての解となるわけでは無いけれど、解の一端、若しくは創発の契機となることは十分に可能性がある。一読した後でも手元に置いておき、参照できるようにしておきたいと思える本。

ここ一ヶ月で「アーキテクチャ」という単語を含む本を(本書含めて)3冊読んだけれど、どれもアタリと思える。ビューティフルアーキテクチャ は既に書いた通りで、2冊目は本エントリ(企業情報システムアーキテクチャ)。そして、最後は、


萩原 正義
翔泳社
発売日:2009-03-03

こちらは、ユースケースに基づいた要求定義や、クラス設計、データモデリング、オブジェクト指向における変更・保守単位の話など、より技術論的アプローチをしている。

順番としては、
  1. 企業情報システムアーキテクチャ
  2. ビューティフルアーキテクチャ(1・2・14章)
  3. アーキテクトの審美眼
  4. ビューティフルアーキテクチャ(その他の章)
が良い。1で全体的な知識を備え、2で一度”超抽象的”世界へ行き、3で具体的かつ現実世界へ戻り、4で更に詳細へ入っていく。インプットはこれでいい線いくとオモイマス。あとは自分のアウトプット次第。

立ち読みでシステムアーキテクチャ構築の原理もパラパラと見たけれど、若干とっつきにくい印象だったので、未購入。amazonでの評価は高いので、後日購入してみたい。




2010/01/04

写真的思考


飯沢 耕太郎
河出書房新社
発売日:2009-12-11
「飯沢耕太郎による初の本格的写真論」というのが、謳い文句の本書。
いろいろな本・雑誌で著者の評論を読んでおり、私の印象では「日本における写真批評=飯沢耕太郎」であったため、ほんとにそうなの? というコピーだけど、そう書いてあるので、事実なのでしょう。

あとがきにある通り、著者は四半世紀に渡って展覧会カタログや雑誌の特集で写真評論を行っていて、それらを纏めたもの+書下し2つのテクストで構成されている。

昔の人は、「魂を吸い取られるから」という理由で写真に撮られる事を嫌っていたという話を聞いたことある。確かに"真"実を"写"す、写真。だが一方で瞬間を切り撮るが故に、人間の感覚器官の(=認識可能な)レベルでは非現実的とも成り得る写真。

著者は、”(セルフ)ポートレイト”、”写真と死者”、”切断と反復”というキーワードから論評を進める。中でも冒頭にある荒木経惟(=P11〜。本業の一つ)、中盤のルイス・キャロル(P105)等の作品分析と、寄り添いの作法としてのスナップ写真のテクストは保存版。

スーザン・ソンタグの写真論も良いけど、取っ付き易さで考えたら本書の方が格段に上。
写真の可能性を感じる一冊でもあります。

1966年にNYで開催されたcontemporary photographers展を起源とした「スナップショット=コンポラ写真」の、外見上定義も(自分自身のメモとして)転載。
  1. 全て横位置であること
  2. 構図という美学に頼った作品は見つからないこと(標準レンズ or 単焦点レンズ)
  3. 写真的技巧を凝らしていないこと
  4. 日常のありふれた事象であること
  5. 説明的な写真でないこと
コンポラ写真の部分は、大学時代、高梨豊氏の写真講義を3年続けて希望するも、抽選に外れ続けた苦い思い出を思い出しながら読んだ。懐かしい。




2010/01/01

芸術の設計―見る/作ることのアプリケーション


岡崎 乾二郎
フィルムアート社
発売日:2007-05-11

記号化し、記録する事は、有史以来人間の営みとして脈々と行われてきた。その成果物は、個人や共同体としての組織が経験した事象から得た知識・情報を他者へ伝達すると同時に、技術の習得・継承・反復にも利用される。ここで重要となるのが、記号化・記録のルール化である。近代から現代にかけて、音楽における楽譜や建築における図面に見られるように、一定の記譜法(ノーテーション)が確立された分野では、著しく技術の一般化、共有化が進み、発展を助けている。

本書は、アートを切り口に、表現形式と技術過程のつながりを読み取るために、それぞれの表現技術が、いかに記録され伝達されているかという、ジャンルそれぞれの記録・記述方法に注目している。何故なら、記録、そしてその記述方法には、それぞれの技術形式がそれぞれ固有の技術、制作過程を、自らどう定義しているか、という技術自身の自意識が現れているから(P14)と考えているからであり、各章において4つの表現ジャンル(建築、音楽、ダンス、美術)ごとに考察される。

各分野における記譜の図版が充実しており、図面を眺めているだけでも思考が触発される。特に、音楽の章におけるシュトックハウゼンの譜面(P128)、ジョンケージ、クリスチャンウォルフの図形譜(P133、P136)が興味深い。

「技術に構造を与えるための外的な参照物」というノーテーションの意味付けは、芸術に限らず、ビジネスにおけるスキーム作りだったり、理論の体系化に共通する。

今日の情報システム分野におけるルール化に注目してみる。大別して技術分野とマネジメント手法・方法論の分野で顕著である。技術分野ではISOやIEC、W3C、OASIS等の各種団体によって、ソフトウェアベンダや機器製造メーカ、学問・学際メンバが検討者となり通信規格や暗号化、インターフェイス他が標準化されている。マネジメント手法・方法論では、米国の非営利団体であるPMIが策定するPMBOK(プロジェクトマネジメント分野)や、情報システムコントロール協会とITガバナンス協会が作成するCOBIT(情報技術管理分野)、ISO/IEC 12207:1995(JIS X 016-1996)を元にしたSLCP-JCF(ソフトウェア開発フレームワーク、共通フレーム)など、多数存在する。また、具体的なシステム開発手法・方法論に関しては、国内各ベンダ独自のノウハウをまとめたものが主流であり、富士通(株)におけるSDAS(System Development Architecture & Support facilities)、日本電気(
株)におけるSystem Director Enterprise、(株)日立製作所の、HIPACE(日立システム開発方法論)、日立標準開発支援ツールなどによってノウハウのルール化が進められ、生産性・品質向上に大きな成果を出している。

しかしながら、上記標準化やマネジメント手法を適用したとしても、システム単体の全体俯瞰図(システム構成図)及び、企業内に存在する情報の連携全体俯瞰図の規定がない為、個別に作成しているのが現状である。よって、システム毎に記述方法が違い、各SEの頭をそれぞれ悩ませており、メンバ間での情報共有並びに、企業内システム全体像の把握を困難なものとしている。

このような状況を踏まえると、情報システムにおける図記号・記述方法のルール化の必要性を痛感する。ルール化した上でさらに必要な事は、1)各システムのエンジニア間の相互理解度向上、2)ドキュメント作成スキルの平準化、3)管理下にある情報システムの構成情報一元化、4)上位プロセスへのフィードバック実施によるエンタープライズアーキテクチャプロセスの円滑化ではないか、本書からそんな事を考えた。