2010/08/13

What I wish I knew When I was 20.

ティナ・シーリグ
阪急コミュニケーションズ
発売日:2010-03-10

数ヶ月前から本屋で平積み & ランキング上位になっていたものの、タイトルと帯コメントから受ける印象が「いわゆるベタな自己啓発本」的で敬遠していた。

*帯には「いくつになっても人生は変えられる」「この世界に自分の居場所をつくるために必要なこと」と書かれているのです。。。

が、ふとしたタイミングで立ち読みしたら、良い意味で裏切られたので購入。一気に読めたし、久しぶりに付箋たくさん付けることになった。

著者は、スタンフォードでアントレプレナーセンターのディレクター職にある Tina Seelig。全編に渡って「価値創造のマインド」「既存枠を一歩踏み出す有意性」などが語られる。これらは起業家には特に必要とされる考え方ではあるが、しかし決して起業家だけに求められることを述べている訳ではない。言葉にすることで安っぽく聞こえる事を恐れず言えば、「自己にとっての充実した人生」を実現するために必要な事が述べられている。

*あれ、感想が帯コメントに似てきた・・・

全体的に”元気になる”文章であり、自分が将来、何か新しいことへチャレンジする前に読み返したい。中でも、以下の一文は意思決定に迷ったとき、自分に問いかける言葉として残しておきたい。
判断に迷ったときは、将来そのときのことをどう話したいかを考えれば良い。将来、胸を張ってはなせるように、いま物語を紡ぐのです。 P167 

この他にも、付箋つけたところは以下。なお、マークした箇所の半分くらいはTina自身の言葉ではなく、実際の起業家たちの言葉やエピソード。スタンフォードの地理的・経済的特性から、ベンチャー魂にまつわる話題には事欠かない。
社会に出たら、有能な教師が道を示してくれるわけではないのだから、君たちはできの悪い教師の授業を取りなさい P22

特徴がはっきりしたニーズこそ、発明の素 P32
ニーズを掘り起こすのに必要なのは、世の中のギャップを見つけ、それを埋める事 P34

起業家精神とは、世の中にはチャンスが転がっていると見る事 P41
カネを稼ぐよりも、意義を見つける方がいい P41

出来るだけ大きく考える。小さな目標を決めるよりも、大きな目標を掲げた方が楽な事が多い P47
マイクロソフトのような企業が導入しているビジネスプロセスには拡張性があります。つまり、組織横断的な大きなグループで作業をするようになっています。 ですが、拡張可能なプロセスは、必ずしも効率的ではありません。火急の問題があり、突貫工事が必要な時、官僚制を打ち破らなくてはならない。通常の業務と は切り離して、特別チームを編成し、ルールを破る事を認め、自由な発想や働き方を認めているのです。 P62
ルールを1000個学んだ人と、やってはならない事を3つ学んで後は自分次第という人 P64

誰かがチャンスをくれるのを待つのではなく、自分でつかみに行った方が良い面がたくさんあります P72

リーダーになろうと思ったら、リーダーとしての役割を引き受けることです。ただ自分に許可を与えればいいのです。組織の中に穴がないか探す。自分が欲しいものを求める。自分のスキルと経験を活かせる方法を見つける。いち早く動こうとする。過去の実績を乗り越える。チャンスはつねにあり、見つけられるのを待っています。誰かに声をかけられるのを待ちながら、慎重に様子を見るのではなく、チャンスはつかみにいくものです。がむしゃらに働かなければならないし、エネルギーも使います。意欲も必要です。でも、これこそがリーダーをリーダーたらしめている資質であり、指示待ちの一般人とは違っているところなのです。 P86

バカな失敗ではなく、賢い失敗を評価すべきなのだ。クリエイティブな組織をつくりたいのであれば、何もしないことは最悪の類いの失敗だ。想像力は行動から生まれる。何もしなければ何も生まれない。 P110

情熱とスキルと市場が重なり合うところ、それがスウィートスポットだ。 P121

生きることの達人は、仕事と遊び、労働と余暇、心と体、教育と娯楽、愛と宗教の区別をつけない。何をやるにしろ、その道で卓越していることを目指す。仕事か遊びかは周りが決めてくれる。当人にとっては、つねに仕事であり遊びでもあるのだ。 P122

自分のキャリアは、フロントガラスではなくバックミラーで見ると辻褄が合っている。 P131

P169〜の交渉力の話

もっとも優秀な人間(矢)を選んで、その人が得意なことに近い仕事(=的)をつくる。 P180

賢明な人たちが陥りがちな落とし穴。「正しい行為」ではなく「賢明な行為」を正当化する。 P181

競争が好きなのと目標達成の意欲が強いのとでは、大きな違いがある。競争好きとは、ゼロサムゲームの中で誰かの犠牲と引き換えに成功することを意味します。これに対し、目標達成の意欲が強い人は、自分自身の情熱を掻き立てて事をおこすのです。P197

後半、正義の話が出てきて、米国大学講義本つながりだが、これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学に関連する話題があるのも面白い。

2010/08/08

ヴァンクライバーン 国際ピアノコンクール  吉原真里

吉原 真里
アルテスパブリッシング
発売日:2010-06-25

テキサスの真ん中、西部の始まりの街フォートワースで4年に一度行われる国際ピアノコンクールを追ったドキュメント。ニュースでも報道されていた通り、2009年は辻井さんとハオチェン・チャンの優勝(*)で幕を閉じたわけだけど、本書は「日本人初優勝」という話題ありきの企画もの取材ではないため、中身が濃い。
  1. 地域コミュニティとアートイベントのパッケージ手法
  2. 主催者・出場者などへのインタビューが充実

■地域コミュニティとアートイベントのパッケージ手法
フォートワースは元々、ウエスタンなカウボーイの街。場所はこんな位置。

大きな地図で見る
 元々ピアノとは全く無関係のこの地で、何故これほどまでの国際的なピアノコンクールが成功しているかが、この本を読むと良く分かる。賞金の多さやファイナリストに与えられるマネージメント契約、世界各地でのリサイタル権も一つの要素であるけれど、最大の要素は、地元コミュニティとの繋がりである。
近年(というかいつの時代にも)、アートを地域振興のツールにしようという向きがあって、日本でも直島のように成功例も出てきているが、ここでもおじいちゃん・おばあちゃんをはじめとした、地元民が積極的にコミットしていると聞く(おにぎり作ったり、来訪者を案内したり)。
フォートワースも、コンクールは3週間に渡って行われるが、その間、出場者とその家族は、地元のホストファミリーの家にステイする事が決まりとなっている。自ずと市民も「自分たちのイベント」という意識が働くから、ホストファミリーにはなれずとも、コンクールのボランティアが1200人(!)も参加しているとの事。
その他にも、地域のイベントとして活性化させるための苦労が記述されており、地域振興のケーススタディとしても興味深く読める。

■主催者・出場者などへのインタビューが充実
クライバーン財団のプログラム監督や、コンクールの審査員、出場者とそのマネージャなど、幅広くインタビューしていて、コンクールの背景や思想、出場者がどのような思いを持っているか等があぶりだされている。
その中でも、とても19歳(2009年時点)とは思えない、ハオチェン・チャンの受け答えがすばらしい。自分の生い立ちからピアニストとしての考え方、曲や他の演奏者に対する意見など、主観と客観のバランス感覚が秀逸。



最後に、審査員に配布されるというハンドブックの序文を引用。コンクールや財団が目指す方向性が明確に示されていて気持ちがいい。
審査員は、コンクールでの演奏中、音楽製、様式的整合性、音楽的高潔性、作曲家の意図の理解、形式的整合性、音色についての感性、個性、創造的イマジネーションなどといった、明らかに考慮すべき点に注意を払うようお願いします。
しかし、それと同時に、審査員は、内なる耳ーそれは、心、または魂と呼ぶべきでしょうかーをもって演奏を聴いてください。つまり、音程やリズム、音量等といったことを超えた(中略)われわれの感情をあふれさせ、われわれの価値観を育んでくれるようなもの、それこそに耳を傾けてほしいのです。
各回のコンクールで真の芸術家を発見できるということは必ずしも想定できませんが、いつの日か真の芸術家になるであろう人物を見きわめることはできるでしょう。審査員は、そうした、偉大なる芸術家としての資質を備え、コンクールによっていくつかの扉を開けられるための準備ができている、非常に特別な音楽家たちを見つけるべく、耳を傾けてください。
忘れてはならないのは、ヴァン・クライバーン財団の機能は、「スター」を発見することではなく、われわれの支援を受けるにふさわしい音楽家に機会を与えることだということです。
審査員は、誰かにとても強力な助けの手を差しのべることが出来る、とても特別な立場にあるのです。これは重大な責任であると同時に、審査員に大きな喜びと満足感をもたらすものであると信じています。P76

2010/07/20

iPadに興味を示した人々

発売日に衝動買いしてから、もっぱら家の中で利用するばかりのiPadですが、思わぬ"おふたかた"に好評を得ている。それは、1)義理の母親 と 2)1〜2歳の子供。

1)義理の母親
妻の出産に合わせて我が家に滞在しているのですが、
  • コードが無い(=家の中持ち歩きに便利)
  • PC起動しなくて良い(=人に頼まないでも自分で検索できる)
  • レシピ集に感激
  • 使い方が簡単(=押すところがある程度限定されている)
  • 数独アプリに感激(=紙と鉛筆が不要で間違えた際の修正容易性)
といった理由で、自宅でも購入を考えている程。
「使い方簡単」については、アプリが1画面に同時起動できるOSよりも、(裏ではマルチタスクで動くにしても)一度に表示される画面では1アプリを表示するiOSの方がユーザフレンドリーという証拠かな。でも、決してそれはiPhoneサイズではなく、大きい画面が必要である(=iPad)、とはアランケイのお言葉。実物見た後では、確かにね、と感じる。


2)1〜2歳の子供
今のところ100%の確率で「触って音が出るアプリ」に興味を示す。
JamPadPocket Pondがその最たるもの。JamPadは鍵盤アプリなので、興味持つ理由もわかりやすい。Pocket Pondは、その名の通り池をシミュレートしたアプリで、画面触ると”ちゃぽん”という音と共に、水面が揺れたり、泳いできた鯉が逃げたりする。
 ※水面ちゃぽんとした直後にiPadの裏側を見た子供が居た。これは、子供の性格に因るところが大きいかもしれないけど、物事の仕組み・仕掛けを知ろうとする純粋な行動だと感心。将来期待大。

ただし、というか当然のようにバシバシガシガシ耐久テストの如く使うので、G-SHOCK並みなタフさを備えるべく、強力ケースが必需品です。


というわけで、iPadの持つポテンシャルを再認識した今日この頃。

2010/07/14

雑誌スキャン(PDF化)と各種電子雑誌アプリを経験して

しばらく前に購入しましたが、評判通りの機能と効果。
「捨てるにはもったいないけど、保管スペースが・・・」だった雑誌類を裁断→スキャンしてPDF化しました。俗にいう”自炊”。両方合わせて7万強の出費ですが、雑誌が占有するスペース月額単価と比較した場合、回収期間法では数ヶ月でペイする計算(という正当化)。

プラス
発売日:2009-09-01

富士通
発売日:2009-02-07

1週間にわたって、100冊弱をPDF化したけど、断裁機の切れ味に惚れ惚れし、スキャンのスピードに驚嘆。スキャンのスピードに関しては、業務用の複合機よりも速い(と感じる)。

ただし、トータルな解決策としては、まだまだだと感じる点も。
それは、PDFの文字認識機能(OCR)。これは、上に挙げたハードというよりもソフトの問題。

当然ながら、PDF化した雑誌データは「そういえば、前に買った雑誌に○○の事が書いてあったな」程度な記憶をトリガーに、検索をしたい。そのためには、画像データとしてのPDFだと何の意味もなく、テキストデータ化しておく=OCR(Optical Character Recognition)ソフトを通す必要がある。

スキャナ添付のOCRを利用したけれど、まるで駄目、使い物にならない。確かに、今回は縦組横組が混在する雑誌であったというのも、OCRソフトには不利な点ではあると理解します。ただ、それを差し引いても、実用にはほど遠い。これが、文庫や新書のように、縦書き統一フォーマットだったら使えるかもしれない。

なので、雑誌データは今のところ、とりあえずPDF化しておいて、優れたOCRソフトが出てくる事を待ちます。

で、PDF化とビューンとWired電子版、GQやVOGUE等の電子本を経験した後に改めて感じた事。
「特定媒体に適した表現方法を、別媒体でシミュレートしても全然ダメ」という事。
記事や広告に関連した動画やwebにダイレクトリンク出来る事は、メリットの一つではあるが、それが電子本である必要性には直結しないと感じる。

一度紙媒体で読んだ雑誌のPDF化は、"読む"事ではなく、アーカイブや上記で述べた検索がメイン目的なのでアリ。初めて読む電子媒体雑誌が、紙と同じ編集の場合はナシ。

当然の事かもしれないですが、実体験を通じてそんな形が見えてきた。

プラスして、「保管スペースをとっても、やっぱり紙媒体のまま手元に置いておきたい」と思う雑誌は、そのまま本棚においてあります。AXIS、1997年位までのSwitch、STUDIO VIOCE、Esquire、アイデア、旅学などなど。

2010/07/11

L5 Remote


リビングにはTV、AVアンプ、PS3、エアコン、照明などなど、沢山のリモコン操作機器が溢れていて、その数だけリモコンがあって邪魔。

そんなときは、iPhoneやiPadを赤外線リモコンに返信させるこのアクセサリの出番。
http://www.l5remote.com/

以前から学習リモコン欲しいなぁと考えていたのですが、2010年初めにこの製品がアナウンスされてから待つ事数ヶ月。2010年5月くらいに入手。iPhone/iPad側にインストールするアプリはiTunesから無料で入手可だけど、肝心の信号授受する部分が有料(50US$、送料15US$)。

利用するまでの手順としては、

  1. iTunes app storeからアプリダウンロード
  2. リモコン画面のデザイン
  3.  L5 Remoteの装着
  4. リモコン信号の読み込み

といった感じで至って簡単。↓の動画見るとよくわかります。


L5のサイトでは、 iPhone4未対応のように見えますが、使ってみたところ正常に稼働(ただし自己責任で)。

目下の悩みは、 解約した iPhone3GSをこれ専用にするのはハードリッチすぎるなぁ、という点。iPod Touchの中古でも買おうかと検討中。

しかし、 iPhoneやiPadのハード面、 iTunes app storeでのソフト面の両方が充実した事によって、明らかに便利になっている。個人的には Lemurや学習リモコンは購入前にiPad/iPhoneに流れ、tenorionは手放そうか検討中だし。Appleへの支払額が順調に増加中です。


2010/06/21

日本人へ - 塩野七生

塩野 七生
文藝春秋
発売日:2010-05-19

塩野 七生
文藝春秋
発売日:2010-06-17

どちらの本も、月刊文藝春秋に連載されていたもの文庫化だが、塩野七生の、日本人としてのアイデンティティと日本に対する愛を感じる良書。
政治に関わる話が多いが、”芯を持った文章”に惚れ惚れした。

話題は、ローマ帝国が長期にわたり繁栄を持続した大きな理由の一つである敗者同化路線の合理性説明や、「戦死者」と「犠牲者」の違い、外交に対する視点・スタンス、一神教と多神教、ファッション・買い物の意義、ひいては皇室まで幅広い。

広くはあるのだけれど、異文化対応、人心掌握、相対的自己認識としての日本を、マキャベッリやカエサルの言葉を引きながら、歴史解釈を交えながら、自己の意見をズバッと言い切る。


ただし、あまりにも切れ味鋭いので、誤解や嫉妬を受けて敵も多そうだな、とも感じる。なかなか真似できない。いや、しようと思っても、史実の解釈と現代の事象とを、ここまで上手にリンケージしてコラム化出来る人は、ほとんど居ないに違いない。


こんな人が書いているんだったら、10年ほど前挫折した「ローマ人の物語第1巻」に、もう一度チャレンジしてみようかという気になる。

全体的には、リーダー篇の方が面白く読めた。

なぜか、危機の時代は、指導者が頻繁に変わる。首をすげ代えれば、危機も打開できるかと、人々は夢を見るのであろうか。だがこれは、夢であって現実ではない。 P40
魚は頭から腐る <->  下部構造が上部構造を決定する P119
当事者を参加させれば問題の解決も早くなる、などという、人間性に無知でしかも偽善的な考え P153
屈折した精神とはしばしば、飛躍の弊害になる P172
危機を打開するには、何をどうやるか、よりも、何をどう一貫してやりつづけるのか、のほうが重要です。打開策の効果はすぐには現れないもので、その間に巻き起こってくる不安や抗議には耳も貸さずにただひたすらやりつづけるしかないからです。それには堅固で持続する意思しかありません。P187
大衆は、問題点を具体的に示されたならば意外にも正しい判断を下す P193

ちなみに本文中、「育くむ」「新らしい」といった表記で統一されている。他にもあるかもしれないが、これらは普段あまり使わない送り仮名。変換辞書にも出てこないし、googleではご丁寧に”Did you mean:〜?”とご提案を受けます。

どんな意図があるのか。
旧送り仮名(なんてものがあるのか?)、語感と表記バランスをとった結果、正式な表記は実はこっち? などと想像を巡らせた。

本文中、何度も「自分はへそまがり」と自認されているので、この送り仮名もその影響かもしれませんが、こんな所も拘りを感じてしまうのは、文章の品が良いから、か。

2010/06/11

iPad+OSCulator+TouchOSC(Editor)+α

iPadが私の使い方だとMacbook Airリプレイス可能、という話は先に書いた通り
今回は、プラスαの部分を紹介。

今まで、MicroKONTROLLaunchPADなどを導入し、夜な夜なコソコソ音いじりをしていました。元々、「画面上マウスとキーボードでぽちぽちしててもつまらん」と感じていたので、フィジカルコントローラを買ってきた訳ですが、iPad+OSCulator+TouchOSC(Editor)を組み合わせると、物理的な触感とは違った気持ち良さを味わえる。

どんな気持ち良さかというと、iPadで操作した内容が、ネットワークを通じてリモートコンピュータ上のアプリに信号を送り、音に変換されて耳にフィードバックが返ってくる、そのリアルタイム性の気持ち良さ! です。

あの、、、言葉で書くと伝わっている気がまるでしないのですがw、今回、知らなかった事沢山なので、自分に対する覚え書きとして残しておきます。


まず、OSCとはOpenSound Controlといって、UCBerkeley のCNMAT(The Center for New Music and Audio Technologies)で開発された、「電子楽器やコンピュータなどの機器において音楽演奏データをネットワーク経由でリアルタイムに共有するための通信プロトコル」*。一般的にTCPではなくUDPを利用するとの事なので、3way handshakeなどのオーバヘッドが無く高速。その代わり、パケットロストなどを考慮したアプリの作りやエラーハンドリングが必要になります。

コンピュータ上で音を扱う場合、MIDI(Musical Instrument Digital Interface、ミディ)の方がメジャーですが、OSCの事を今回初めて知り、使ってみて納得。USBでつながっていなく、ネットワーク越しに操作しているにも関わらず、キビキビと操作可能。しかも、iPadの場合、(当然ながら)無線LAN経由になるので、リモートで操作してる感がたまりません(ふと、藤幡正樹のGlobal Interior Projectを思い出した)。

では実際のセットアップ。なお、テンプレートやサンプルプロジェクトがいろいろあったので、操作対象にAbleton Liveを使ってます。Max/MSPでもいけますが、今回はお手軽な方で。

全体の流れは、iPad上にTouchOSC、母艦MacにはOSCulatorというソフトウェアをインストール。そのアプリ間でOSCデータ送受信を担当させます。OSCを受け取ったOSCulatorは、OSCをMIDIに変換した後、Ableton Liveへ送信して音が鳴るというものです。


1.母艦macにOSCulatorをインストール
OSCulator
http://www.osculator.net/
ライセンス料は「Recommended price is $39 USD, minimum amount is $19 USD.」です。支払していなくとも利用は可能、ただし数分おきにダイアログが出てきて、サービスポートが閉じられます。

2. iPadへTouchOSCをインストール
TouchOSC
http://hexler.net/software/touchosc
iPhone/iPad用アプリは、app storeで¥600。editorは上記サイトからダウンロード可能。

3. 母艦macにTouchOSC Editorをインストール
TouchOSC Editor
http://hexler.net/software/touchosc
画面下にスクロールするとあります。

4. サンプルセットをダウンロード
http://blog.dubspot.com/ipad-touchosc/
ページ上部にある「Download the Dubspot iPad TouchOSC resources by clicking here」からリソースダウンロード。

5. ネットワーク設定
OSCulator Patch DocumentであるDubspot TouchOSC Tutorial 1を開き、サービスを開始(デフォルトでポート8000が指定されている。↓のoutgoingと同一にする)。
iPad側でTouchOSCを起動。network欄で母艦macのIP、Port(outgoing)=8000、Port(incoming)=9000を入力。うまくhostが見つかると、iPad上TouchOSCのnetwork画面でFound Hostsに「コンピュータ名:ポート番号(OSCulator)」と表示されます。

注意1:先に書いた通り、登録前のOSCulatorは数分おきにサービスを閉じます。設定中に登録を促すダイアログが出てきていたら、not yetをクリックし、サービスを再開。

注意2:母艦とiPadは同一ネットワークに属するように設定の事。特に、無線LANを複数セグメントに分けている場合は、要注意。






6. Dubspot TouchOSC Tutorial 1.touchoscを開きiPadへ転送


4でダウンロードしたものを解凍し、Dubspot TouchOSC Tutorial 1.touchoscをダブルクリック。TouchOSC editorで開くので、画面右上の”sync”を実行。10数秒でsync可能な状態になるので、iPad側TouchOSCでLayout -> Addを実行。Found Hostsに見えているコンピュータ名を選択すると、転送が始まります。



7. TouchOSC動作確認

母艦側でOSCulatorを選択し、更に /1/fader1を選択した状態で、画面上のQuick Lookを実行すると、OSC受信状態を確認するウインドウが出てくるので、iPad上の一番左側のTRACK1のフェーダを上下させます。うまくリンクアップできていれば、QuickLookウインドウに信号が検知される。


8. Live起動+MIDI Port設定

4でダウンロードしたものの中から、TouchOSC Tutorial (Submerciful Construction Kit).als を実行してLiveを起動。
環境設定から、MIDI Syncを選択して、OSCulator Out とInのトラックとリモートをそれぞれオンにする。
7でうまくリンクできていれば、LiveをiPadから操作できるはずです。
















しばらくは、これで遊べます。

2010/06/06

iPad

実物見るまで、あまり食指が動かなかったiPad。
発売日当日の昼休みにsofmap mac collection館へ行って、触って、まだ在庫ある、と分かった時点で負けてました。見事なまでの衝動買い、そして秋葉原が職場である事の”地の利”が最大限活かされた出来事。

職場の後輩なんて、「家に無線LAN環境が無い」のにWiFi版をご購入→家帰った後でLANケーブル接続する口がない事に愕然→母艦経由でアプリ入れるも、生殺し状態を2〜3日味わってしまうような、一時的判断力ゼロ状態。

昔Windows95が発売された時、家にPC無いのにWin95のメディアだけ購入して帰宅した人々、が頭をかすめる。後年、あの時と同じような熱狂として語られるのでしょうか。

*ちなみに上記後輩は、MacBook/iPhoneユーザであるので、Win95の例みたいにひどくはないし、ITを生業としているので知識/スキルはちゃんとあります。それだけ浮かれてたって事です。本人の名誉の為。

で、1週間が経過し、今あるアプリも一通り試した結果、そのポテンシャルは十分あると考えます。そして、ある程度自分なりのiPadポジションが見えてきた。

結論から言うと、MacBook Airの代替が可能、プラスアルファが多々ある。

人によっては、???なぜ???だと思うので詳しく説明すると、

2010/04末、MacBook Core i7搭載モデルがリリースされたと同時にMacProを売り、MacBook Proをフルオプション(Mem8GB/512GB SSD/非光沢ディスプレイ)で購入してメインマシンに。
その時点での機器と用途は以下。

・MacBook Pro ー メインマシン
・MacBook Air ー リビング、持ち歩き用(特に旅行時のフォトストレージ)
・PowerBook G4 Ti ー 妻用、プロジェクタ接続用(DVIがデフォルトであるから)
・iPhone ー RSSリーダ、通勤用

元々、Airではたいした事やっていなかった、というのもあるのですが、ニュース系のアプリではブラウザで見るよりも快適だし、ベッドに寝転んでの利用では、キーボードを必要とする作業はしないので、必要十分。

旅行時のフォトストレージとしては、CFのバックアップがメインなのでAirやiPadでなくても良いけど、その場で見れた方がベター。エプソンのフォトビュアーよりも汎用性高くて○。

ここまではリプレイスの話。

プラスαはここから。
「音操作のアプリが秀逸」という点。これはAirには出来ない。

iELECTRIBEは面白いし、無料のものでも使えそうなものが沢山。
そして極めつけは。。。

今まで、つまみorボタン沢山の音楽系ガジェットに惹かれてきて、Lemurが発売された時、危うく買いそうになったけど、買わないで正解だった。(少なくとも私の使い方では)iPadと、OSCulator+TouchOSC(Editor)を組み合わせる事によって、非常に快適なコントローラが出来上がります。

次回はその紹介。つづく。

2010/06/04

Accounting / Finance

もうかれこれ2ヶ月ほど前、会社の机に電話帳ほどの資料が届いた。
何かと思えば財務会計の研修資料。去年度末に申込みした事を思い出すが、時既に遅し。
仕事の合間に、山のような課題に追われて2ヶ月。やっと研修も終わり、解放された。

今までも、財務会計の研修はあったけれど、今回は有価証券報告書を分析し、その企業の抱えているだろうと思われる問題発見と、その解決策を提示する事がメインであったため、グループワークは非常に有意義。

ただ、講師がハズレ。
丸2日のうち、半日以上を各指標(ROE, ROA etc)の説明に費やし、研修受講者が在籍する会社の財務状況(自己資本比率低下など)も把握していない有様。学校の先生としてはOKかもしれないですが、企業研修の講師としては、人気出ないですよ。各指標の計算方法なんて、どの本読んでも書いてある訳だし。

今回は、当日グループワーク > 事前に読んだ本 > 講師の話 の順で今後の役に立つ。

「財務本財務3表一体理解法・分析法」の2冊は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書のつながりを説明してくれる良本。まずは、この2冊をざっと読んで、さらに解説の図をコピーしてノートにでもまとめておけば、かなり使える。売れている理由がわかる気がした。








で、次にもうちょっと詳しくと思えば、下記2冊。
実際の有価証券報告書を使っていろいろ解説してくれる。決算書速読術は、上記”分析法”に近い感じ、一方「企業価値を創造する会計指標入門」は、ROE、売上高営業利益率、EBITDA、EVAなど、指標ごとに企業の実例を使っているので、若干詳細まで扱っている。中でも、終章の”会計指標の選択とポートフォリオ”は、指標ごとの特性と適合性がまとめられていて有益。


望月 実,花房 幸範
阪急コミュニケーションズ
発売日:2008-01-30

大津 広一
ダイヤモンド社
発売日:2005-09-29


人によって程度はあるけれど、財務や会計のプロになるのではなく、一般ビジネス知識として理解するレベルであれば、これくらいで良いのでは、と感じる。

また、今回EDINETを利用した。EDINETは、Electronic Disclosure for Investors' NETworkの略で、金融庁が運営している『金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム』。ここで、XBRL(XML形式での有価証券報告書)が提供されている。

これは非常に便利。分析したい複数企業を同じタグで集計すれば、PDFから数値入力する必要なし。今後、活用の幅は広がりそうな感じ(と言われつつ、広がっていないのが現実だけど)。


追記:
講師の話で腑に落ちた話が一つあった。

「投資判断基準で回収期間法が、1)日本企業で未だにメジャーな理由と、2)外資でも最近利用している分野がある理由」
  1. 戦後、カネ/モノがない時代。調達・製造・販売・回収のサイクルを早める必要があり、正味現在価値(NPV)などより、何より回収の期間を重視する必要があった為。それが現在まで続いてしまっている。
  2. 家電やPCなど、ライフサイクルが異様に短くなってきている製品に関しては、売上がたつ期間が短いため、回収期間法が適していると判断。

2010/03/29

booklog iPhone app.

web上に自分が所持している本を登録・管理できるbooklog。
このサービスのiPhoneアプリの動きがすばらしい。
http://booklog.jp/iphone

いままでは、本のバーコード下に書いてあるISBNを入力していたのですが、これが結構面倒。よって、一時期USB接続のバーコードリーダー購入を検討していたけど、無料のこのアプリで実現可能になります。

使い方は簡単。
  1. booklogでアカウント作成
  2. バーコード読み取り を実行
  3. カメラでバーコード部分をアップにうつす
そうすると、下の画像のように、緑枠が自動でバーコード部分をスキャンしてISBNを読み取り、amazonのwebサービス経由で本の情報を取得してくれます。 
3Gの場合はマクロレンズが必要との事ですが、動きもキビキビしているので、本がいっぱいある人には非常にオススメです。

2010/03/16

ペリーがパワポで提案書を持ってきたら

タイトルの通りです。
http://portal.nifty.com/2010/02/21/b/

「開国のご提案 東インド艦隊 司令官 ペリー」から始まって、「弊艦隊のご紹介」「開国のスキーム」「マイルストン」まで、仕事で作成しがちな”なんちゃって提案資料”の体裁そのまま。

良い意味では、着眼点が面白い。
反面教師としては、中身のない提案資料は作らないように、ですね。

特に、最後の「メッセージ」。
新時代アライアンスによるコアコンピタンスの最適化を! 

見ますね、こういうの。
何かを言っているようで、なんにもメッセージになってない系。

横文字、カタカナ連発してたら要注意です。

2010/02/28

謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦

須田 将啓,田中 禎人
ミシマ社
発売日:2008-03-14

この手の本にしては若干古い本になるが、リアルな起業物語が生々しく、スピード感と想いを形にしていく過程が元気にさせてくれる。

アイディア発想からブラッシュアップ、パートナーと考えていた人との決裂、 社名考案、個人的つながりでの出資者募、システム発注先の夜逃げ、 などなどサービス開始までの紆余曲折が共同経営者2人の視点で交互に記述されていく。 そのスピード感たるや。

私自身2000〜2002年まで、学生社員としてベンチャーに在籍していた関係で、文章から昔の肌感覚が呼び起こされる。

一つ新しいサービスを立ち上げるために、会社全体が一体となって課題を解決していく様は、毎日が「学園祭前夜」みたいな雰囲気で、(仕事だから当然)辛いのだけれど、非常に心地よいもの。

思い返すと「仕事における主体性」や「チームでのプロジェクト推進」「意見をぶつけ合う会議」「新しい仕組みの創造」など、自分の仕事における基本スタンスは、この時代に養われたと思う。

その後、その会社は無事IPOし、2009年度はこの不況下で過去最高に良い決算になりそう。当時、私がIllustratorとPhotoshopで夜な夜な作成した会社ロゴは、上場後の今でも利用して頂いており、非常に恐縮。

今の組織での仕事も日々課題の連続で楽しい。
でも、ベンチャーで経験した感覚は今でも忘れない。

そんな気持ちを思い出させてくれた。

2010/02/25

フラットな世界、twitterの面白さ

正直、「twitterって何のため?」なんて考えていたけれども、ここ最近、その認識を改めつつある。ネットワークによるコミュニケーション革命によって、確実に世界はフラットになっていると実感したから。

■普通に生活してたら実世界での直接発言を聞く機会が、滅多に無い人の発言が見える

@Astro_Soichi 宇宙飛行士 野口聡一
彼、今宇宙。なのに発言がリアルタイムでわかるこのスゴさ。写真も素晴らしい。

@skmt09 坂本龍一

@takashipom 村上隆

@hazuma 東浩紀

@BillGates ビル・ゲイツ


■企業がユーザニーズ吸い上げの場として利用している

@masason 孫正義
驚くのは、Twitterで要望受けた料金プランを1週間で実現した事。
http://twitter.com/masason/status/8847481518
これだけ大規模な企業には考えられないスピード。情報システムがどうなっているのか興味深々。

@hmikitani 三木谷浩史
楽天のAPIも近々充実されそうだし。


信ぴょう性の無い情報が錯綜したり、”なりすまし”があったり(ハバーマスの件は残念。。。)もするけれど、それらのデメリットよりも面白さの方が上をいっている。自分ではあんまりつぶやかないので、受ける専門ですが。。。

2010/02/17

Nuit Blanche/Making Of Nuit Blanche



白夜(Nuit Blanche)、というタイトルのショートムービー。
ストーリーは「話としてはよくありがちだけど現実にはあまりない」場面を描いているけど、表現手法・映像クオリティが素晴らしい。一瞬で相互に惹かれあう様が"hyper real fantasy"に描かれる(*)。

Nuit Blanche


で、そのメイキングがこっち↓。
個人的にはメイキングの方が好き。

Making Of Nuit Blanche

Making Of Nuit Blanche from Spy Films on Vimeo.



このプロダクション、センスの良い映像を制作してます。


2010/02/16

parallel world(s) stories + research

1Q84、アバター、クォンタム・ファミリーズ(QF)。


1Q84だけは2009年6月だったけど、後者2つはここ1ヶ月で観た/読んだ物語。

青豆と天吾、1984年と1Q84年の並行世界。
地球人とナヴィ族の、地球人ジェイクとナヴィ族ジェイクの並行世界。
そして、(1回読んだだけでは)把握しきれないほど交錯しあう家族を巡る並行世界。


東浩紀がQFで書くように、
生きるとは、なしとげられるはずのことの一部をなしとげたことに変え、残りをすべてなしとげられる《かもしれなかった》ことに押し込める、そんな作業の連続だ。(中略) 直接法過去と直接法未来の総和は確実に減少し、仮定法過去の総和がそのぶん増えていく。
という時代感覚は、決してネガティブな意味ではなく、ポジティブにしっくりくる。
だとすると、

・並行して存在する世界同士が対峙する+物理的存在の2者間を移動する物語(アバター)、
・並行世界を飛び越えて登場人物が一つの世界に同居する物語(QF)、
・登場人物同士は決して出会わない、でも1人称では並行世界を渡る物語(1Q84)

と形はいろいろあれど、マーケティング的に考えたも、この物語たちは必然かも、と思える・・・

・・・ということを考えていた折、週刊朝日の中森明夫 連載に「映画アバターと並行世界的想像力」というコラムがあることをtwitterで知り、普段読まない週刊誌を早速立ち読みしてみた。感想は「自分と同じことを考えてる」という感じ。なんとなく悔しい思いがして、書かないでいたのですが、+αの興味深い記事があった(ので書いている)。


「光合成は量子コンピューティング」:複数箇所に同時存在

小学校時代に習った、あの光合成。あれが、なんと量子物理学的プロセスであるという研究成果がNatureに発表されたとの事。量子コヒーレント=量子重ね合わせ状態=量子力学において確率的に得られる二つの状態がいまだに決定されていない状態。

今まさに何かの意思決定を求められている(A or B)状況で、まだ判断していない時点では、Aと判断した場合の世界と、Bと判断した場合の世界が存在している、という考え方。

以前書いた、理性の限界――不可能性・不確定性・不完全性 の2章や、(まだこのblogでは書いてない)SF小説がリアルになる 量子の新時代 (朝日新書 187) の第1部2章~3章にかけての文章が解りやすい。

身近に生息している植物たちが、我々の想像を超えた現象によって生きているって考えるだけで、わくわくどきどき。

今(2010年)時点の常識から考えたら、突拍子も無い捉え方かもしれないけど、「太陽が動いている」と考えられていた時代に「地球が動いている」なんて想像もされなかったのと同様??? と考えると、真面目にそれアリかも、と思います。

アバターは一般的に、クォンタム・ファミリーズは東浩紀好きにとって、どちらも流行りもの的な感はあるけど、かなりおすすめです。


東 浩紀
新潮社
発売日:2009-12-18

余談:アバターは、IMAXで見た方がいいです。ここのレビューでも、だし、実際見ると3D具合にびっくり。押井守も完敗宣言しちゃってるし、ぜひ。

2010/01/12

企業情報システムアーキテクチャ/アーキテクトの審美眼


南波 幸雄
翔泳社
発売日:2009-04-16

企業内の情報システムにおけるリスク管理や移行計画、成熟過程までをカバーして「アーキテクチャ」を俯瞰・整理すると共に、200を超える参考文献を参照しながら解説される良書。以下3点を目指しているとの事だが、かなりバランス良く纏まっている。
  1. 企業情報システムと情報システムの粒度差異からくる視点の相違明確化
  2. 現状の情報システムの問題をアーキテクチャの観点から説明し解決方向性の見出し
  3. 著者の実務経験及び研究成果を生かし、現場で役立つ業務遂行能力を育成
企業における情報システム従事者必読。

近年、激動の経営環境に追従できる情報システムが求められており、柔軟性と即応性が鍵となる。そのような状況下では、小手先の対応ではすぐに破綻をきたす。コンセプトを持ったアーキテクチャが必要とされる。決して本書が全ての解となるわけでは無いけれど、解の一端、若しくは創発の契機となることは十分に可能性がある。一読した後でも手元に置いておき、参照できるようにしておきたいと思える本。

ここ一ヶ月で「アーキテクチャ」という単語を含む本を(本書含めて)3冊読んだけれど、どれもアタリと思える。ビューティフルアーキテクチャ は既に書いた通りで、2冊目は本エントリ(企業情報システムアーキテクチャ)。そして、最後は、


萩原 正義
翔泳社
発売日:2009-03-03

こちらは、ユースケースに基づいた要求定義や、クラス設計、データモデリング、オブジェクト指向における変更・保守単位の話など、より技術論的アプローチをしている。

順番としては、
  1. 企業情報システムアーキテクチャ
  2. ビューティフルアーキテクチャ(1・2・14章)
  3. アーキテクトの審美眼
  4. ビューティフルアーキテクチャ(その他の章)
が良い。1で全体的な知識を備え、2で一度”超抽象的”世界へ行き、3で具体的かつ現実世界へ戻り、4で更に詳細へ入っていく。インプットはこれでいい線いくとオモイマス。あとは自分のアウトプット次第。

立ち読みでシステムアーキテクチャ構築の原理もパラパラと見たけれど、若干とっつきにくい印象だったので、未購入。amazonでの評価は高いので、後日購入してみたい。




2010/01/04

写真的思考


飯沢 耕太郎
河出書房新社
発売日:2009-12-11
「飯沢耕太郎による初の本格的写真論」というのが、謳い文句の本書。
いろいろな本・雑誌で著者の評論を読んでおり、私の印象では「日本における写真批評=飯沢耕太郎」であったため、ほんとにそうなの? というコピーだけど、そう書いてあるので、事実なのでしょう。

あとがきにある通り、著者は四半世紀に渡って展覧会カタログや雑誌の特集で写真評論を行っていて、それらを纏めたもの+書下し2つのテクストで構成されている。

昔の人は、「魂を吸い取られるから」という理由で写真に撮られる事を嫌っていたという話を聞いたことある。確かに"真"実を"写"す、写真。だが一方で瞬間を切り撮るが故に、人間の感覚器官の(=認識可能な)レベルでは非現実的とも成り得る写真。

著者は、”(セルフ)ポートレイト”、”写真と死者”、”切断と反復”というキーワードから論評を進める。中でも冒頭にある荒木経惟(=P11〜。本業の一つ)、中盤のルイス・キャロル(P105)等の作品分析と、寄り添いの作法としてのスナップ写真のテクストは保存版。

スーザン・ソンタグの写真論も良いけど、取っ付き易さで考えたら本書の方が格段に上。
写真の可能性を感じる一冊でもあります。

1966年にNYで開催されたcontemporary photographers展を起源とした「スナップショット=コンポラ写真」の、外見上定義も(自分自身のメモとして)転載。
  1. 全て横位置であること
  2. 構図という美学に頼った作品は見つからないこと(標準レンズ or 単焦点レンズ)
  3. 写真的技巧を凝らしていないこと
  4. 日常のありふれた事象であること
  5. 説明的な写真でないこと
コンポラ写真の部分は、大学時代、高梨豊氏の写真講義を3年続けて希望するも、抽選に外れ続けた苦い思い出を思い出しながら読んだ。懐かしい。




2010/01/01

芸術の設計―見る/作ることのアプリケーション


岡崎 乾二郎
フィルムアート社
発売日:2007-05-11

記号化し、記録する事は、有史以来人間の営みとして脈々と行われてきた。その成果物は、個人や共同体としての組織が経験した事象から得た知識・情報を他者へ伝達すると同時に、技術の習得・継承・反復にも利用される。ここで重要となるのが、記号化・記録のルール化である。近代から現代にかけて、音楽における楽譜や建築における図面に見られるように、一定の記譜法(ノーテーション)が確立された分野では、著しく技術の一般化、共有化が進み、発展を助けている。

本書は、アートを切り口に、表現形式と技術過程のつながりを読み取るために、それぞれの表現技術が、いかに記録され伝達されているかという、ジャンルそれぞれの記録・記述方法に注目している。何故なら、記録、そしてその記述方法には、それぞれの技術形式がそれぞれ固有の技術、制作過程を、自らどう定義しているか、という技術自身の自意識が現れているから(P14)と考えているからであり、各章において4つの表現ジャンル(建築、音楽、ダンス、美術)ごとに考察される。

各分野における記譜の図版が充実しており、図面を眺めているだけでも思考が触発される。特に、音楽の章におけるシュトックハウゼンの譜面(P128)、ジョンケージ、クリスチャンウォルフの図形譜(P133、P136)が興味深い。

「技術に構造を与えるための外的な参照物」というノーテーションの意味付けは、芸術に限らず、ビジネスにおけるスキーム作りだったり、理論の体系化に共通する。

今日の情報システム分野におけるルール化に注目してみる。大別して技術分野とマネジメント手法・方法論の分野で顕著である。技術分野ではISOやIEC、W3C、OASIS等の各種団体によって、ソフトウェアベンダや機器製造メーカ、学問・学際メンバが検討者となり通信規格や暗号化、インターフェイス他が標準化されている。マネジメント手法・方法論では、米国の非営利団体であるPMIが策定するPMBOK(プロジェクトマネジメント分野)や、情報システムコントロール協会とITガバナンス協会が作成するCOBIT(情報技術管理分野)、ISO/IEC 12207:1995(JIS X 016-1996)を元にしたSLCP-JCF(ソフトウェア開発フレームワーク、共通フレーム)など、多数存在する。また、具体的なシステム開発手法・方法論に関しては、国内各ベンダ独自のノウハウをまとめたものが主流であり、富士通(株)におけるSDAS(System Development Architecture & Support facilities)、日本電気(
株)におけるSystem Director Enterprise、(株)日立製作所の、HIPACE(日立システム開発方法論)、日立標準開発支援ツールなどによってノウハウのルール化が進められ、生産性・品質向上に大きな成果を出している。

しかしながら、上記標準化やマネジメント手法を適用したとしても、システム単体の全体俯瞰図(システム構成図)及び、企業内に存在する情報の連携全体俯瞰図の規定がない為、個別に作成しているのが現状である。よって、システム毎に記述方法が違い、各SEの頭をそれぞれ悩ませており、メンバ間での情報共有並びに、企業内システム全体像の把握を困難なものとしている。

このような状況を踏まえると、情報システムにおける図記号・記述方法のルール化の必要性を痛感する。ルール化した上でさらに必要な事は、1)各システムのエンジニア間の相互理解度向上、2)ドキュメント作成スキルの平準化、3)管理下にある情報システムの構成情報一元化、4)上位プロセスへのフィードバック実施によるエンタープライズアーキテクチャプロセスの円滑化ではないか、本書からそんな事を考えた。