2010/06/21

日本人へ - 塩野七生

塩野 七生
文藝春秋
発売日:2010-05-19

塩野 七生
文藝春秋
発売日:2010-06-17

どちらの本も、月刊文藝春秋に連載されていたもの文庫化だが、塩野七生の、日本人としてのアイデンティティと日本に対する愛を感じる良書。
政治に関わる話が多いが、”芯を持った文章”に惚れ惚れした。

話題は、ローマ帝国が長期にわたり繁栄を持続した大きな理由の一つである敗者同化路線の合理性説明や、「戦死者」と「犠牲者」の違い、外交に対する視点・スタンス、一神教と多神教、ファッション・買い物の意義、ひいては皇室まで幅広い。

広くはあるのだけれど、異文化対応、人心掌握、相対的自己認識としての日本を、マキャベッリやカエサルの言葉を引きながら、歴史解釈を交えながら、自己の意見をズバッと言い切る。


ただし、あまりにも切れ味鋭いので、誤解や嫉妬を受けて敵も多そうだな、とも感じる。なかなか真似できない。いや、しようと思っても、史実の解釈と現代の事象とを、ここまで上手にリンケージしてコラム化出来る人は、ほとんど居ないに違いない。


こんな人が書いているんだったら、10年ほど前挫折した「ローマ人の物語第1巻」に、もう一度チャレンジしてみようかという気になる。

全体的には、リーダー篇の方が面白く読めた。

なぜか、危機の時代は、指導者が頻繁に変わる。首をすげ代えれば、危機も打開できるかと、人々は夢を見るのであろうか。だがこれは、夢であって現実ではない。 P40
魚は頭から腐る <->  下部構造が上部構造を決定する P119
当事者を参加させれば問題の解決も早くなる、などという、人間性に無知でしかも偽善的な考え P153
屈折した精神とはしばしば、飛躍の弊害になる P172
危機を打開するには、何をどうやるか、よりも、何をどう一貫してやりつづけるのか、のほうが重要です。打開策の効果はすぐには現れないもので、その間に巻き起こってくる不安や抗議には耳も貸さずにただひたすらやりつづけるしかないからです。それには堅固で持続する意思しかありません。P187
大衆は、問題点を具体的に示されたならば意外にも正しい判断を下す P193

ちなみに本文中、「育くむ」「新らしい」といった表記で統一されている。他にもあるかもしれないが、これらは普段あまり使わない送り仮名。変換辞書にも出てこないし、googleではご丁寧に”Did you mean:〜?”とご提案を受けます。

どんな意図があるのか。
旧送り仮名(なんてものがあるのか?)、語感と表記バランスをとった結果、正式な表記は実はこっち? などと想像を巡らせた。

本文中、何度も「自分はへそまがり」と自認されているので、この送り仮名もその影響かもしれませんが、こんな所も拘りを感じてしまうのは、文章の品が良いから、か。

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