2010/01/01

芸術の設計―見る/作ることのアプリケーション


岡崎 乾二郎
フィルムアート社
発売日:2007-05-11

記号化し、記録する事は、有史以来人間の営みとして脈々と行われてきた。その成果物は、個人や共同体としての組織が経験した事象から得た知識・情報を他者へ伝達すると同時に、技術の習得・継承・反復にも利用される。ここで重要となるのが、記号化・記録のルール化である。近代から現代にかけて、音楽における楽譜や建築における図面に見られるように、一定の記譜法(ノーテーション)が確立された分野では、著しく技術の一般化、共有化が進み、発展を助けている。

本書は、アートを切り口に、表現形式と技術過程のつながりを読み取るために、それぞれの表現技術が、いかに記録され伝達されているかという、ジャンルそれぞれの記録・記述方法に注目している。何故なら、記録、そしてその記述方法には、それぞれの技術形式がそれぞれ固有の技術、制作過程を、自らどう定義しているか、という技術自身の自意識が現れているから(P14)と考えているからであり、各章において4つの表現ジャンル(建築、音楽、ダンス、美術)ごとに考察される。

各分野における記譜の図版が充実しており、図面を眺めているだけでも思考が触発される。特に、音楽の章におけるシュトックハウゼンの譜面(P128)、ジョンケージ、クリスチャンウォルフの図形譜(P133、P136)が興味深い。

「技術に構造を与えるための外的な参照物」というノーテーションの意味付けは、芸術に限らず、ビジネスにおけるスキーム作りだったり、理論の体系化に共通する。

今日の情報システム分野におけるルール化に注目してみる。大別して技術分野とマネジメント手法・方法論の分野で顕著である。技術分野ではISOやIEC、W3C、OASIS等の各種団体によって、ソフトウェアベンダや機器製造メーカ、学問・学際メンバが検討者となり通信規格や暗号化、インターフェイス他が標準化されている。マネジメント手法・方法論では、米国の非営利団体であるPMIが策定するPMBOK(プロジェクトマネジメント分野)や、情報システムコントロール協会とITガバナンス協会が作成するCOBIT(情報技術管理分野)、ISO/IEC 12207:1995(JIS X 016-1996)を元にしたSLCP-JCF(ソフトウェア開発フレームワーク、共通フレーム)など、多数存在する。また、具体的なシステム開発手法・方法論に関しては、国内各ベンダ独自のノウハウをまとめたものが主流であり、富士通(株)におけるSDAS(System Development Architecture & Support facilities)、日本電気(
株)におけるSystem Director Enterprise、(株)日立製作所の、HIPACE(日立システム開発方法論)、日立標準開発支援ツールなどによってノウハウのルール化が進められ、生産性・品質向上に大きな成果を出している。

しかしながら、上記標準化やマネジメント手法を適用したとしても、システム単体の全体俯瞰図(システム構成図)及び、企業内に存在する情報の連携全体俯瞰図の規定がない為、個別に作成しているのが現状である。よって、システム毎に記述方法が違い、各SEの頭をそれぞれ悩ませており、メンバ間での情報共有並びに、企業内システム全体像の把握を困難なものとしている。

このような状況を踏まえると、情報システムにおける図記号・記述方法のルール化の必要性を痛感する。ルール化した上でさらに必要な事は、1)各システムのエンジニア間の相互理解度向上、2)ドキュメント作成スキルの平準化、3)管理下にある情報システムの構成情報一元化、4)上位プロセスへのフィードバック実施によるエンタープライズアーキテクチャプロセスの円滑化ではないか、本書からそんな事を考えた。




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